現代思想

担当教員:戸澤幸作
Instructor:TOZAWA Kosaku

概要

Abstract

現代思想は、主に20世紀以後の比較的新しい哲学の動向を紹介します。前期開講の現代思想1では、哲学対話をテーマとしています。具体的な内容は毎年アップデートされますが、基本的には、この実践の意義や背景となる思想を理解すると同時に、受講者がファシリテーターとして自分たちで企画を作れるようになることを目標としています。
ちなみに、哲学対話(日本では哲学プラクティスとも呼ばれる)とは、「対話」を通して〈哲学する〉ことを目的とした種々の活動実践の総称です。実践形態は多岐にわたりますが、それらに通底する特徴は、全ての参加者が「哲学者」である限りにおいて対等であること、目的は常に「探究」にあることです。

履修生による紹介

─2024年度 美術科 2回生 古野佐和夏

今の世の中の風潮として、相手を論破して自分の意見を確固たるものとするのは正しいことで、それができるとかっこいい、みたいな傾向があると感じています。もちろんそういった方法が必要になる場面はあるので、自分の主張を曲げずに相手を納得させる能力は重要なのかもしれません。ですが、その場における人との言葉のやりとりでは、自分自身が変わらない点において創造性に欠けると言えるでしょう。また会話以外のコミュニケーション手段にそのような論破の方法しか持っていないと、他者の意見を尊重できない虚しい人になってしまいます。

現代思想1の授業は哲学対話について学び、実践する機会です。冒頭に述べた議論や日常会話とは異なり、哲学対話では、1つのテーマに対していくつか問いを作り、複数人がそれぞれ感じたことや、思いついたこと、疑問に思ったことなどを自由に、けれど他の参加者の意見を尊重しながら深めていきます。
授業内容ですが、哲学対話とは何かを様々な哲学者の考察を通して紹介していただいた後、グループに分かれ自分たちで実際にやってみる、という形でした。ですので、どちらかと言えば座学で自分の知識を広げるのではなく実践してみる方に重きが置かれていました。
具体的に授業で行った哲学対話の方法としては、ファシリテーターと参加者に分かれて輪を作り、コミュニティボールを回します。参加者はこのコミュニティボールが自分の手元にある時のみ発言できるというルールがあります。なので、何か話したいことがある時はそれを持っている人に要求し、手元に来てから話します。これを使うことで持っている人は、その内容に納得できないと思う人がその場にいても話しきるまで意見は尊重され、何か言いたいことがうまく言えなかったり、良い表現の仕方が見つからなかったりしてもそれで責められる事はありません。
参加者それぞれにとってそこでは、今まで疑問だったことが解消したり逆に謎が増えたりする場であり、自分の掲げていた意見が人の意見を聞き、発言していくにつれて変容することをよしとしています。
社会の中には答えのない問いがたくさんあります。そのようなはっきりとはしないながらも、漠然とモヤモヤする気持ちを他者にわかるように頑張って言語化する過程で、自分自身の中でも漠然としか認識できていなかったものが形になっていきます。また、自分の疑問に対して、他者がどのような考えでどの程度の意識を持っているか知る機会にもなります。さらに、他者から意見や疑問を投げかけられることでさらに問いが広がっていきます。
こうして自分の考えが変わっていくことはすごくいい刺激になりますし、もしかしたら自分の人生にとって重要になるような大きな問いを見つけられるかもしれません。それに、様々な人と交流できるきっかけにもなります。このような点で哲学対話はコミュニケーション手段として有用な方法となり得るのではないでしょうか。
特に、なかなか結論が出せずギスギスしがちなテーマの話し合いの場において、自分と意見を異にする相手の意見は受け入れ難いものです。しかし、哲学対話のやり方では相手の意見をたとえ納得できなくても一旦受け止めてみる姿勢が重視されるため、もしかしたら相手のことを誤解しているのかもしれないことや、自分の意見が絶対ではないと反省することができるかもしれません。

人間関係において言葉は欠かせないツールです。ところが、それを扱うのが上手い人もいますが、誰しも自分の考えをうまく表現できないことがあります。自分の苦手な相手と対峙しなければならない時なら尚更です。そのため、誤った表現をしてしまったり、思ってもみないことが口から出てきたりして、人間関係が悪くなることもあります。そもそも人の言っていることを完全に理解するのは無理です。ですが、複数人が集まって対話していく中で、そのような解釈の齟齬があったとして、それはいつも悪い方向に転がるものでもないと実際やってみて感じました。
それは、人の意見に出てきたある表現の仕方や自分なりの解釈が自分の意見を考え直し、より根拠のあるものに作り直したり、意見が全く逆になったりと自分を変えるきっかけになったからです。
これが哲学対話で重視される思考の1つの創造的思考ですが、これを行えるからこそ、哲学対話には、議論とは異なる問題解決の糸口、対話の着地点があるように感じます。
このように、苦手な人のことも関わる機会がなければ理解できないで終わることもできますが、関わらなければならない時は一旦話を聞いて受け止めてみることもできます。そういう考え方をこの授業で学んだとともに広まっていけばいいなというのが受講した感想になります。

最後に人間関係や哲学対話の有用性などとは関係なく、何より様々な人からいろんな考えを聞けますし、芸大生ならではの展開やテーマが出てきて大変面白かったので、皆さんぜひ履修してみてください。

写真:大講義室でのグループディスカッションの様子
講義室1にて。大教室での実践風景。
写真:畳の部屋で10数人が車座になって座る様子
講義室12(畳スペース)にて。小グループに分かれての演習風景。各グループで独自企画を立てて実践します。
写真:畳敷でビーズクッションのある部屋でくつろいだ様子で話し合う学生たち
リベラルアーツ研究室にて。各グループで自由に場所を選び、対話における空間の重要性を学びます。