漆作品を成層圏へー京芸生と工学部生の合同プロジェクト

美術学部漆工専攻3回生の久保尚子さんが、京芸生・卒業生に加えて他大学の工学系の学生さんたちと一緒に取り組んでいるプロジェクトについて寄稿してくれました。

このプロジェクトは、高度約30kmの成層圏まで漆の作品を打ち上げ、地球が太陽光を反射する光で照らされる様子をカメラで撮影するというもので、2022年9月に愛媛県で開催される成層圏バルーンの大会に参加する形で実施される予定です。現在、プロジェクトのコンセプトを全員で考えながら、久保さんが搭載される作品制作を担当し、電装や構造などの機体の開発、webやSNSなどの広報、資金集めなどをチームが協力して行っています。

(磯部洋明)

宙漆プロジェクトについて

京都市立芸術大学 美術学部工芸科漆工専攻 久保尚子

現在私はテーマ演習「科学・芸術・社会の相互作用」のコミュニティで出会った京芸生と、名古屋工業大学、名古屋大学、東京大学の工学部の学生さんたちと共に「宙漆(そらうるし)プロジェクト」を進めています。異なる分野の学生が集まり、それぞれできることを持ち寄って一つの作品を作ろうとしています。

表現の舞台は宇宙の入り口である成層圏です。成層圏の最低温度は-60℃、気圧は地上の1/100と、とても過酷な環境です。私たちが想像しているのは、今後宇宙開発がますます活発になり、宇宙旅行・宇宙移住が当たり前になった世界です。そこでは、これまで人類が地球上で「月光」を用いて物を愛でてきたように、「地球光」で物を愛でるようになっているのではないか。地球上で芸術という文化が生まれたように、宇宙でも新たな文化が生まれるのではないか。私たちはそう考えています。

成層圏から見た地球はこんな感じです

今回私たちは、年に一度満月の夜に満開の花を咲かせるという逸話を持つ月下美人をモチーフに作品を制作をします。月光で愛でる象徴とも言える月下美人を、宇宙の入り口において地球光で愛で、人類の宇宙進出後の嗜みの先取りしたいと考えています。

イメージ図

このプロジェクトの魅力は芸術と工学の融合です。工学に精通した学生と協力して行うからこそ、成層圏での表現活動が可能になります。他分野の学生との交流は、作品制作やコンセプトを考える上でもとても価値のあることです。お互いの専門領域から少し飛び出してそれぞれの得意分野を持ち寄り、対話する中で得られる発見や学びは、このプロジェクトならではの魅力です。学生だけでできないことは関連企業の方にも力を貸してもらっています。現在は京都の堤淺吉漆店さん、愛媛県の五十崎社中さんに協力していただいています。

堤淺吉漆店さんからご提供頂いた漆
五十崎社中さんの工房に見学に行ってきました

異なる分野の人に自分たちが取り組んでいることを説明することは、お互いの分野への理解を深めるだけではなく、自分の分野について改めて考えるきっかけとなり、自らが取り組んできた分野の魅力の再発見に繋がっています。また、美術は美術業界だけでなく多くの場面で求められる分野であると気づきました。

開発中の機体
開発中の機体

チームで議論しながら一つのものを作り上げることは、一人で行う制作とは異なる難しさがあります。特に個人での制作を中心としている美術の学生は、自分の考えや思いを言語化して他者に伝えることを苦手とする人が多いと思います。私自身もプロジェクト開始当初は工学部の学生さんたちの言葉数の多さに圧倒されたり、自分の制作意図を思うように伝えられなかったりし、zoom会議が終わるたびに落ち込んでばかりでした。けれども、協力してプロジェクトを行う中で初めて実現できることが沢山ありました。自分のアイデアを他者に伝えることでより思考が整理され、自分自身の制作の内容ややりたいことが明確になりました。一緒に制作をすることは他者を思いやることの温かさを教えてくれました。そして何より分野を超えた交流は今まで知り得なかった領域へと関心を広げるきっかけになっていると感じます。

そして、このような想いはプロジェクトが形になるにつれチームメンバーみんなが抱くものとなっています。

「メンバーの技術とアイデアを合わせ、自分たちの手で宇宙に挑戦したい。」

「自分が宇宙に行きたいという思いを作品に込めたい。」

「分野の垣根を超えることで、個人制作では得られない新しいプロセスを体験したい。」

「漆のイメージを新鮮なものに変えたい。」

芸術と工学が融合する宙漆プロジェクトは、宇宙での表現活動への第一歩であるとともに、個人の成長にとっても大きな一歩です。

成層圏で私達の手がけた作品が見れると思うとワクワクし、そんな作品を見て何か感じ取ってくれる人がいるかもしれないと想像すると今からとても楽しみです。私達が惹かれた漆と宇宙の魅力をより多くの人に届けられればと思っています。

このプロジェクトはきっと私達だけでなく未来の芸術家たちの活動領域を広げることにも繋がると確信しています。

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