宇宙に生きる喜びを分かち合う-対話で紡ぐ芸術と科学の協働

田中ゆり(美術学部 客員研究員)

宇宙と芸術、そしてそれらが交じり合う詩的な営みを通じて、笑顔のあふれる世界を構築したい。そうした思いから、これまで芸術家と科学者の対話を主な手法として、研究者、とりわけ芸術監督として、国内外でさまざまな協働プロジェクトを編み上げてきた。

現在は京都市立芸術大学の自然科学研究室、ジュネーヴにある国際機関CERN(欧州素粒子物理学研究所)を拠点として活動している。CERNでは2015年に現地を訪れて以来、宇宙と芸術を中核にしたプロジェクトを提案したところ快く受け入れていただき、幸い素敵な仲間たちに恵まれて研究と実践を続けている。

"Life, the Universe and Everything" (2021, Tokyo)

仲間の一人、実験物理学者のUmut KoseさんとはIdeaSquareというCERNのイノベーション拠点で日常的に時間と空間を共にしている。ここ数年会えなかった日々も、こうして一緒にいるとあっという間に感じられる。

仲間の研究風景, photo: Yuri Tanaka
IdeaSquareの空間, photo: Yuri Tanaka.

2018-2019年に滞在していた折、IdeaSquareの空間内に「庭」をつくるプロジェクトがはじまった。人間が宇宙に生きる喜びを分かち合えるような、自由な居場所となる空間として、新しい「庭」のあり方を探ろうと考えた。不安定な社会状況もあって数年間保留状態が続いたが、宇宙と仲間たちへの私の情熱と行動が途切れることはなかった。2022年からは公益財団法人小笠原敏晶記念財団の助成に支えられ、ついに現地での滞在および調査研究を再開した。

今回は環境デザイン専攻の坂東幸輔先生の研究室との協働で、学生の方々も含めて構想、デザイン、制作を進める予定である。実験物理学者をはじめ、フィンランドのアールト大学デザインファクトリーを背景に発足したIdeaSquareの仲間たちなど、世界の多様な文化や思考をもった人間が対話を通じてひとつの空間を創り上げていくことで、道なき道を模索しつつ、開かれた場を朗らかに創出していきたい。